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「なぜ“肝”なの?「肝が据わっている」に隠された身体表現の謎

「あの人、本当に肝が据わってるよね」。

何か大きな出来事や緊張感のある場面でも、動じずに堂々とふるまう人に対して、こんなふうに言うことがありますよね。

でも、よく考えてみると「肝が据わる」って、なぜ「肝」なのか、不思議に感じませんか?今回はこの表現にまつわる意味や成り立ち、背景にある日本語の身体感覚について、やさしくひもといていきます。

◆「肝が据わっている」とは、どういう状態?

この表現は、怖がらずに堂々としていて、少しのことでは動じない性格や態度を指します。

たとえば、周囲があたふたするようなトラブルの場でも、冷静沈着に対応する人に対して、「肝が据わっているなぁ」と感じたりしますよね。

でもこの「肝」、内臓の“きも”を指すとわかっていても、「どうして肝が“据わる”の?」という疑問が湧いてくるかもしれません。

◆「肝=心臓」だった?古くからの身体観

日本では古くから、「肝」は単なる内臓というより、“精神の中心”を象徴する器官として考えられてきました。

特に「勇気」や「度胸」、「精神力」といったものは、この“肝”に宿るとされていたのです。

中国の古典医学にも、「肝は怒りや決断力に関係する」といった記述があり、感情や意思の力と結びつけて捉えられていました。

◆「据わる」という表現の意味

一方の「据わる」という言葉には、「しっかりと定まっていて動かない」という意味があります。椅子に腰を据える、などと言うように、どっしりと構えるイメージですね。

つまり「肝が据わる」とは、精神の中心である“肝”がしっかりと定まっている=動揺せず、揺らがないという状態を表しているのです。

◆なぜ“肝”が選ばれたのか?

では、どうして「心」や「胸」ではなく「肝」が使われているのでしょうか?

一説には、「肝」は身体の奥深くにある臓器であり、生命維持にとって重要な働きをすることから、“命の源”として重視されたことが関係しているといわれています。

また、目には見えない感情や意志の力を、具体的な身体の部位に置き換えて表現するのは、日本語ならではの言語感覚かもしれません。

◆似た表現との違いは?

「肝が据わっている」に似た言葉に、「腹が据わっている」や「度胸がある」などがあります。

「腹が据わる」も同様に、物事に対して動じない落ち着いた様子を表しますが、やや決意や覚悟のニュアンスが強めです。

「肝が据わっている」は、それよりも少し自然体で、もともと持っている性格や気質に近い印象を与えます。

◆現代でも使われる「身体ことば」の魅力

このように、日本語には身体の一部を使って感情や性格を表す言葉が数多く存在します。「胸が高鳴る」「腹をくくる」「手が震える」など、感覚を言葉に落とし込む工夫がいたるところにあります。

「肝が据わっている」も、そんな“身体を通じた心の表現”のひとつなのです。

◆まとめ:言葉から見る、日本人の感性

「肝が据わっている」という言葉には、ただの比喩以上に、日本人の身体感覚や精神性、そして言葉に込められた文化的な背景が感じられます。

日常の何気ない表現にも、こうした歴史や意味が詰まっていると知ると、言葉の奥深さに驚かされますね。これから誰かに「肝が据わってるね」と言いたくなったときは、その言葉にこめられた感覚もぜひ思い出してみてください。